仕入税額控除が認められない?帳簿保存の留意点を裁判例で確認

消費税の仕入税額控除に関連して、インボイスが話題ですが、仕入税額控除の規定を適用するためには、インボイスを含む請求書等だけでなく一定の事項を記載した帳簿の保存が必要です(消法30⑦⑧)。そこで、消費税法の仕入税額控除において、どのような帳簿を作成し保存する必要があるのかを整理します。

 

1.帳簿の記載事項

課税仕入れに係る仕入税額控除を適用するためには、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」、「課税仕入れを行った年月日」、「課税仕入れに係る資産又は役務の内容(いわゆる軽減税率の場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)」、「税率ごとに区分した課税仕入れに係る支払対価の額」の4つを記載する必要があります(消法30⑧一)。

 

2.「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」に係る裁判例

東京地裁平成9年8月28日判決(訟月45巻2号388頁)は、医薬品の現金卸売業を営む事業者について、帳簿の記載事項である「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」を仮名とした仕入税額控除を認めないとしたものです。原告である納税者は、事業の実情に照らして、課税仕入れの相手方の真実の氏名又は名称を記載することが著しく困難であり、その真実性を確認する方途がないことから、仮名を帳簿に記載した旨等を主張しました。しかし、東京地裁は、医薬品を譲り受けた際に、法律上、譲渡人の氏名に係る事項等を書面に記載し保存しなければならないとされていること、取引件数の多寡等を踏まえて、課税仕入れの相手方の真実の氏名又は名称を記載することが著しく困難ではないとして、原告の主張を斥けました。

インボイスの記載事項に「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」があり、これを取引先コード等で記載しても差し支えないとされていることから(消基通1-8-3)、帳簿の記載事項である「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」も取引先コード等で記載しても差し支えないと考えられます。しかし、仮名等で記載してしまうと、課税仕入れに係る消費税額の調査、確認を行うための資料としては不適切であるため、留意が必要です。

 

3.「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」以外の記載事項に係る留意点

「課税仕入れを行った年月日」と代金の決済を行った日は、同日とならないことがあります。商業帳簿や、所得税・法人税に係る帳簿について、期中は現金主義で記帳し、決算時に発生主義に修正しているといった場合は、そのままでは「課税仕入れを行った年月日」が記載されていることにならず、したがって、消費税法上の帳簿が作成されていないと判断される可能性があります。

また、「課税仕入れに係る資産又は役務の内容」、「税率ごとに区分した課税仕入れに係る支払対価の額」は、請求書等を逐次参照して確認することがない程度の記載が必要であるため、税務調査の対象となる可能性があることに留意しながら、簡素すぎる記載とならないように対応する必要があると考えられます。