「副業300万以下は雑所得」の影響

1.はじめに

「収入金額が300万円以下の副業は雑所得」という改正案を国税庁が公表しました。8月末までパブリックコメントを募集したところ、4,000件を超える意見が寄せられており、この改正に対する関心の高さが伺えます。厚生労働省は、働き方改革の一環として副業・兼業の普及促進を図ってきました。平成30年1月には、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、モデル就業規則に、原則として「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」という規定を追加しました。人生100年時代が到来し、収入を増やしたい、1つの仕事だけでは生活できない、自分が活躍できる場を広げたいなど様々な理由で副業・兼業を希望する人が増えています。今回の改正案は国民の働き方にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 

2.雑所得に関する改正

令和2年度にも雑所得に関する改正が行われています。シェアリングエコノミー等の新分野の経済活動が広がりをみせているなか、適正課税の確保に向けた取り組みが必要になったことがその理由です。雑所得の計算上、総収入金額及び必要経費に算入すべき金額を、その業務につきその年において収入した金額及び支出した金額とする、いわゆる現金主義の特例は、前々年分のその業務に係る収入金額(以下「基準年度の収入」といいます)が300 万円以下である小規模な業務を行う者に限るとされました。また、それまで雑所得については、金額の多寡にかかわらず、確定申告書に収支内訳書を添付する必要はありませんでしたが、基準年度の収入が消費税の課税事業者になる 1,000 万円を超える場合には、収支内訳書を確定申告書に添付しなければならなくなりました。基準年度の収入が300 万円超の納税者は、請求書や領収書などの現金預金取引等関係書類の5年間保存も義務化されました。これらの改正は、令和4年分以後の所得税について適用されます。

 

3.改正の影響

では、300万円以下が雑所得になると、どのような影響があるのでしょう。副業を事業所得ではなく、雑所得として申告すると、①他の所得との損益通算ができなくなる、②最大65万円控除が受けられるなど優遇措置の多い「青色申告」を利用することができなくなるというデメリットがあります。少額の収入に対して、個人的な支出を含む多額の経費を計上して赤字を作ることで節税ができると指南するサイトも多数存在することから、一部で行き過ぎた節税に利用されていたことも否めません。

改正案では収入金額が300万円以下であれば、即雑所得になるとはなっていません。「特に反証のない限り、業務に係る雑所得として取り扱って差し支えない」となっていますから、収入金額が300万円以下の副業であっても、事業としての実体があり、経費も売上を獲得するために必要な支出を適正に計上しているということであれば、事業所得としての申告が認められる可能性はあります。

株式会社 Lboseが8月29日〜30日に行なったインターネットリサーチでは、副業での年間売上が300万円未満の人は全体の46.87%となっていて、この改正の影響を受けることになりそうです。しかし一方で、ほとんどの人が、改正案通りと定められたとしても、変わらず副業を続けると回答しています。多くの人が節税目的ではなく、収入を増やしたい、今の仕事を続けながら新しい経験を積みたいと考えている証左ではないでしょうか。副業・兼業を長く続けるためにも、適正な税務申告を心がける必要があります。